こね上げ温度を意識したパン作りをしてみよう
パンの仕上がりを左右するポイントに「こね上げ温度」があります。
今回はこね上げ温度とは何か、パン作りにどんな影響をもたらすのかについて考えていきます。
こね上げ温度とは
こね上げ温度とは、こね終えた直後の生地の温度のこと。生地の中心に温度計を差し込んで測ります。
こね上げ温度が重要なのは、パンを膨らませる役割を持つイーストが関係しているから。
イーストが活動しやすい温度は28~35℃。45℃前後から活動が鈍くなり、60℃以上になると死滅してしまうといわれています。
こね上げ温度が低すぎるとイーストの活動が鈍るため、レシピ通りの時間では発酵が進みません。逆に高すぎると、過発酵になることも。
こね上げ温度を意識することで、発酵や生地の状態を安定させることができるんですね。
パン屋さんでは材料の計量と同様に、材料の温度を測り、こね上げ温度を調整します。
それほど作業時間と仕上がりに影響するのが、こね上げ温度なのです。
生地の適正温度
こね上げの適正温度は、パンの種類によって変わります。
- 一般的なパン生地…26~28℃
- バターの割合が多いブリオッシュなどの生地…24℃程度(バターが溶けるのを防ぐため)
- 低温長時間発酵を取るバゲットなどのハードパン生地…24℃前後
多少ずれてしまっても、±2℃くらいを目指しましょう。
仕込み水の計算方法
材料の中でも割合の多い水。生地を目標のこね上げ温度にするために、仕込み水の温度は最も重要。
*仕込み水は、イーストの活動を阻害してしまう45℃を超えないように注意が必要です。
ここでは、仕込み水の温度を求める計算式を説明していきます。
仕込み水の温度を求める計算式は、下記。
3×(こね上げ温度-摩擦係数)-粉温-室温=仕込み水の温度
*摩擦係数とは、こねによる摩擦で変化する温度のこと。
ミキサーなどの機械ごねは6~10℃、手ごねなら-5~3℃の間を目安に。
機械や手のひらの温度、こねる時間によっても変わってきます。
計算してみましょう
目標こね上げ温度…27℃
- 摩擦係数(機械ごね)…6℃
- 粉温…29℃
- 室温…26℃
仕込み水を求める計算式に当てはめてみると、
3×(27-6)-29-26=8
となり、水温8℃の仕込み水を用意するとよい、ということになります。
こね上げ温度を調整する工夫
水だけではこね上げ温度の調整が難しいときは、水以外にも工夫が必要に。
有効な方法をご紹介します。
こね上げ温度を上げたいとき(冬場など作業環境の温度が低いとき)
- 室温を暖かくしてこねる
- 材料(粉類)を室温に戻す
- 手ごねの際は手を温める
- 機械ごねの場合はミキサーボウルを温める
こね上げ温度を下げたいとき(夏場など作業環境の温度が高いとき)
- 室温を涼しくしてこねる
- 材料(粉類)を冷やす
- 手ごねの際は手を冷やす
- 機械ごねの場合はミキサーボウルを冷やす
- ミキサーボウルに機械の熱が伝わってこもるのを防ぐため、ふたを開けてこねる
*たたきごねをすることも有効
*生地が機械から飛び出る・機械が倒れるなどの危険があるので、目を離さないように注意
こね上げ温度がずれた場合の対処法
生地温度が適正よりも低い場合
- 30℃くらいの暖かい場所で、レシピの指定時間より少し長めに発酵を取る。
生地温度が適正よりも高い場合
- 28℃くらいの低めの温度で一次発酵を取り、レシピの時間より早めに切り上げる。
- 生地の温度を下げる。
- こね終えた生地を平らにして、ラップやビニール袋で包む。
- 冷蔵庫に入れて1~2分間ほどで取り出し、生地の温度が均一になるよう丸め直す。
生地の温度を下げるには、下記の方法がおすすめ。
短時間で、少しだけですが温度を下げることができます。
生地温度が高い場合の方が、味に影響が出やすいので注意が必要。
過発酵になりやすく、パンの老化(劣化)も早くなります。
こね上げ温度がずれたパンはどうなる?
こね上げ温度が高くなってしまったパン生地を、レシピ通りに焼き上げるとどうなるのでしょうか。
こね上げ温度が「適正の28℃」と「適正より高い34℃」の生地で比較してみました。
条件
A…こね上げ温度28℃
B…こね上げ温度34℃
室温
28℃
こね
パンこね器(ニーダー)で10分間、油脂を加えて8分間
一次発酵
30℃で50分間
二次発酵
30℃で50分間
焼成
200℃で28分間
検証結果
こね終えた状態
AよりBの生地の方がやわらかい。
丸めると、Aには張りがあるのに対し、Bは緩んでいる。
一次発酵後の生地
Aは約2倍の大きさになり、Bは約3倍まで大きく膨らんでいる。
焼き上がり
Aはしっかり膨らんだが、Bは窯伸びしていない。
焼き色はAが少し濃い。
断面
Aはきめが整っている。
Bはきめが粗く、過発酵の特徴が表れている。
焼き戻したとき
同じ温度で焼き戻しても、色付きにかなり差が出た。
食感
Aはしっとりした口当たりでおいしい。
Bは少しパサついていて口に残り、イースト臭が強い感じする。
まとめ
こね上げ温度がずれたまま作業をすすめてしまうと、パンの焼き上がりに影響が出ることがわかりました。
こね上げ温度がずれた場合は、前述の「こね上げ温度がずれた場合の対処法」を参考に、発酵温度や時間を調整してくださいね。
こね上げ温度を意識してみよう
いかがでしたか?
こね上げ温度が少し変わるだけで、生地の状態・焼き上がりまでの時間・パンの仕上がりや味に少しずつ違いが表れます。
こね上げ温度を意識して、安定したパン作りを目指しましょう。