伝統素材よもぎを使った
春の米粉スコーン
cotta tomorrowの連載「なかしましほさんが出会った韓国のスイーツ、ときどきパン」も大好評! 書籍や雑誌、SNSなどでも人気のなかしましほさんに、何度も訪れている韓国で印象に残った、スイーツのトレンドについて伺いました。
よもぎと米粉のスコーン
レシピを見る「本」から始まった
なかしまさんのお菓子
なかしまさんのお菓子作りの原点は、子どもの頃に雑誌や本で見たレシピの世界。ティーン向けの雑誌でお菓子作りに親しみ、ファッションやカルチャーの雑誌を開いては、都会に思いを馳せていたそう。
「今はインターネットで世界中の情報を動画でも知ることができますが、私が10〜20代の頃は雑誌が貴重な情報源。新潟で生まれ育ったので、雑誌に出ているものやお店が存在している東京への憧れがとても強かったですね。
大人になってから上京し、最初の勤め先はレコード会社。次に音楽系の出版社でカルチャー雑誌の編集に携わりました。
ある時、仕事で料理ページに関わったのですが、それがとても楽しくて! 以前から好きだった料理やお菓子を、自分でも本という形で残せたらと思うようになったんです」
その後、パン屋、カフェ、レストランなどで食の仕事の経験を積んだなかしまさん。さまざまな苦労がありながらも自身のお店「foodmood」を立ち上げ、縁あって2007年に念願のレシピ本を出せることになりました。
「担当編集者さんは、もともとファッション畑のかたで、初めてつくる料理書が私の本。お互いに手探り状態だったのですが、だからこそ自由に楽しく形にできました」
お菓子の本では珍しい黒い表紙に、『もっちりシフォン さっくりクッキー どっしりケーキ オーガニックなレシピノート』という長いタイトル! 横長のかわいらしい判型で、何度でも開きたくなる本ならではの楽しさが詰まっています(文化出版局刊)。
伝統と新しさが融合する
韓国のスイーツカルチャー
なかしまさんのお菓子や料理の本は、翻訳されて海外でも販売され、お菓子教室が韓国で開かれたことも。
「最初は仕事で訪れた韓国でしたが、食はもちろん、映画やドラマ、音楽などにも触れ、知れば知るほど興味を持つようになりました。
同じ趣味を持つ友達同士で、ちょっとしたお菓子をプレゼント(ソンムル)する習慣があったり、東京やニューヨークなどの食の流行が韓国で独自の発展を遂げていたりと、訪れるたびに発見があってワクワクします。
カラフルでポップなものがたくさんあって、このハングル語のクッキー型は、韓国で買ったもの。
一方、伝統食材を大切にし、食べるもので養生するという考えが根付いているのも韓国の特徴です」
焼きたてがおいしい!
よもぎと米粉のスコーン
「今回は、韓国で伝統食に使われる『よもぎ』を使ってみたいと思い、スコーンにしてみました」
春に芽吹くよもぎは、栄養豊富な野草。韓国では食用にするほか、お茶や入浴剤にも用いられ、日本でも流行した、体を温める韓国発祥の民間療法「よもぎ蒸し」を試したことがあるかたもいるかもしれませんね。
「日本でも草だんごの材料にしますが、韓国ではチヂミなどの料理にも使います。
また、よもぎを使った伝統的なもち菓子が今も愛されていますが、現代風にアレンジしたものもあって、幅広い年代によもぎが親しまれているようです。
韓国のカフェやケーキ屋さんでは、フィナンシェやバターバー、ラテなど、よもぎフレーバーのお菓子やドリンクなどをよく目にします。
よもぎの品のあるさわやかな香りは、バターを使ったお菓子と相性がいいんですよ。」
写真の緑色のものが、今回使うよもぎ。
「乾燥させた粉末状のものが使いやすくて便利です」
「スコーンの生地作りは、フードプロセッサーを使うと、とっても簡単。
サクッ、ふわっとした食感を目指して、粉は米粉を使ってみました。水でのばしてペースト状にしたよもぎパウダーを米粉と合わせ、バターと一緒に攪拌してサラサラになったら、卵液を混ぜて生地が完成。
生地をカットして重ねる作業を繰り返すことで、焼き上がった時に層ができて食感がよくなります」
卵を塗ってオーブンで焼けば、できあがり!
「ふんわり広がるよもぎの香りに、なんとも癒されます。焼きたてに、あんこをはさんで食べるのがおすすめです」
お菓子はみんなを幸せにする
コミュニケーションツール
仕事以外でもお菓子を作る機会が多いなかしまさん。友人のために「推し」をイメージしたものを考えて、贈ることが多いのだとか。
「好きなアーティストやアイドルなど〈推し〉の誕生日を祝って、ケーキを食べるのも韓国のユニークで愛すべきカルチャー。
こちらは、友人の推しのアイドルがよく例えられるひよこをモチーフにした〈センイルケーキ〉です。
ひよこのバタークリームケーキ
レシピを見る友人ともっと仲良くなれたり、新しく友達になったりと、お菓子を介して広がる輪があるって素敵ですよね。友人と推しのためにお菓子を作る時間もすごく楽しいですし、おいしい組み合わせを考えながら形にしていく作業も、つい時間を忘れてしまうほど。
お菓子は、生活に絶対必要なものではないけれど、あると幸せにしてくれます。
おなかを満たすだけでなく、好きな人やものをイメージした形にしたり、ほっとなごむかわいらしさを表現したりもできるのもお菓子の魅力です。
今後は、キャラクターをモチーフにしたお菓子の型なども作ってみたいですね。
かわいい! これ好き! がきっかけになって、お菓子が繋いでくれる輪をもっと広げていけたらうれしいです」
取材・文/singt 撮影/広瀬貴子、なかしましほ(ひよこのバタークリームケーキ)
出版社勤務の後、ベトナム料理店、オーガニックレストランなどで経験を積み、料理家として独立。2006年、おやつの店「foodmood」をオープン。おいしくて、体にもやさしい材料を使った、かわいいお菓子のレシピが人気。2024年4月末に新刊『なかしましほ ソウルのおいしいごはんとおやつ』(KADOKAWA)を発売予定。X(旧ツイッター)@nakashimarecipe