特別対談!クリスマスのシュトーレン
クリスマス特別対談!
大森由紀子先生&佐藤亮太郎シェフ
文化に根付いたフランス菓子の魅力を広く伝える、料理・菓子研究家の大森由紀子先生と、cottaのスタッフライブ配信やプレミアムレッスンでもおなじみの鎌倉「レガレヴ」佐藤亮太郎シェフ。近年、日本のクリスマスで定番化している「シュトーレン(シュトレン)」について語っていただきました。
日本とフランスの
シュトーレン事情
シュトーレン
レシピを見るcotta:
真っ白い粉糖をまぶしたシンプルな形が特徴の、ドイツ生まれの伝統菓子「シュトーレン(シュトレン)」。スパイスが香るドライフルーツやナッツがぎっしり詰まっていて、一度食べると忘れられない味ですよね。
キラキラしたクリスマスケーキと並んで、日本の店頭でも見かけるようになりました。
佐藤シェフ:
鎌倉にある僕の店でも11月末ごろからシュトーレンをお出ししていて、年々ニーズが高まっているのを感じています。
でも実は、パリではほとんど見かけないんですよ。
大森先生:
フランスの中でもアルザスだけは別で、ドイツとの国境に位置していて、一時はドイツ領だった影響からか、シュトーレンが食べられていますよ。
アルザスでは「クリスストレン(Christstollen)」と呼んでいます。こちらの本の写真をご覧ください。バターと卵がたっぷり入ったブリオッシュ生地で作るので、日本で広く知られているドイツ風のものに比べて、食感が柔らかくて軽いんです。
cotta:
日本ではここ10年近くでしょうか、シュトーレンをお店で見ることも、いただくことも増えているなあと実感しています。
お店によって作り方も味もさまざまなので、食べ比べをするのも楽しいですよね!
入っているフルーツやナッツの種類が違ったり、食感もいろいろ。
大森先生:
実は、日本で数年前までプロ向けのシュトーレンコンテストを行っていて、私は審査員を務めていたんです。みそやよもぎを使った純和テイストのものから、栗がぎっしり入ったものなど、アレンジアイディアが豊富でしたね。
「パン」だから包容力があるのかしら?
佐藤シェフ:
そうなんですよ、シュトーレンはパンなんです。
cotta:
シュトーレンは「いつか作ってみたい憧れのもの」ということで、お客さまからの関心も年々高まっています。
大森先生:
いつか、という気持ちはわかります。お菓子畑の人からすると、発酵させる「パン」は、ちょっとハードルが高いんですよ。
佐藤シェフ:
本格的なシュトーレンを作るなら、何ヶ月も前からドライフルーツを仕込んで、ベースになる生地のほかに、中種を別で作って...と、かなり時間も手間もかかるんですよね。
クリスマスに販売するものですが、お店では、夏頃から準備を始めるほどです。
でも、ぜひ一度手作りの楽しさも味わっていただきたくて、生地作りを簡単にしたレシピを考えてみました。
ワイン漬けのフルーツが美味
中種いらずのシュトーレン
佐藤シェフ:
シュトーレンは、この「なまこ」のような形に意味があるんですよね。
大森先生:
ドイツ語で「シュトレン」は「坑道」という意味。トンネルの坑道に似ているという説や、幼子イエスを抱いていたおくるみからこの形になったという説など、由来には諸説あります。
佐藤シェフ:
種作りは家庭用にぐっと簡単にしているので、その分、少し生地が固いのですが、かえって扱いやすくなるのもメリット。
フルーツも多すぎるとべたべたして生地をまとめづらく、この形にするのが難しくなってしまうので、お店で販売するものに比べて、減らしてみました。
まずは食べてみてください!
cotta:
お酒の風味がこれまで食べたものと違う!フルーツの味わいが引き立っていますね。
佐藤シェフ:
日本ではラム酒にフルーツを漬けるレシピが多いと思いますが、僕のお店で出しているのも、今回のレシピも「白ワイン」に漬けているんです。
お店では、クリスマスの半年前から漬けるところ、今日は、少し前に漬け込んだ「浅漬け」のドライフルーツが入っています。
シュトーレンの生地に合わせるなら、僕は白ワインのほうが好き。フルーツの色もきれいに仕上がるんですよ。
cotta:
白ワイン漬けのフルーツの上品で爽やかな味わいが、コクのあるバターがしみ込んだ生地と、アーモンドの風味が濃厚なマジパンによく合っています。
大森先生:
時間が経つに連れて全体の一体感が増して、さらに味に深みが出そう!溶かしバターにくぐらせた生地の表面と、たっぷりとまぶす粉糖も程よくなじんでいって、口当たりもさらによくなりそうですね。熟成させたものを、ぜひ食べてみたいです。
佐藤シェフ:
そうですね、1週間くらい熟成させると、ぐっとおいしくなりますよ。
みなさんに実際に作ってみていただきたくて考えたこのレシピ。生地作りが2段階必要な中種法ではなく、生地のこねを一度に済ませるストレート法なので、トライしやすくなっています。
大森先生:
シェフのレシピなら、ハードルが下がって、普段はパンを作らない私もぜひ作ってみたくなります。
今年の冬は少し早めにクリスマス支度を始めて、シュトーレンを作ってみませんか。少しずつ切り分けて食べるのもシュトーレンの楽しみのひとつ。時間がたつに連れておいしさが増し、味わいの変化が感じられます。
佐藤シェフのレシピで作ればお店で買ったような本格味に!クリスマスの贈り物にもぴったりです。
次回は、小嶋ルミ先生に、クリスマスに贈りたいクッキー作りについて伺います。
取材・文/singt 撮影/田中館 裕介
大森由紀子先生
フランス料理・菓子研究家。自宅で料理・菓子教室「エートル・パティス・キュイジーヌ」を主宰。企業のアドバイザー、コンクールの審査員なども数多く務める。フランス政府より2017年に農事功労章シュバリエ勲章を受勲。著書多数。近著は「フランス伝統料理と地方菓子の事典」。
洋菓子店「ルコント」での勤務を経て1966年、24歳で渡仏。フランスでは「メゾンブランシュ」や、ミシュラン三つ星レストラン「ギーサボワー」「ラペルーズ」など数多くの一流店でシェフを務め、2021年9月に鎌倉でサロン・ド・テ「Regalez Vous(レガレヴ)」をオープン。