プラントベースの新食感スイーツ
ザクザク!チョコサンドクッキー
cottaでも大人気の、ASTERISQUE(アステリスク)代表、和泉光一シェフ。いつも新しい時代をリードしている和泉シェフに、今、注目の「プラントベースフード」を使ったお菓子について、cottaのキッチンスタジオでお話を伺いました。
クルスティアン ショコラ ソイ
レシピを見る和菓子店に生まれ、洋菓子の道へ
「実家は祖父の代から続く和菓子店。店を営んでいると家族そろって食事をすることが難しく、小学校1年生のときから、材料の調達も含めて自分でごはんを作っていました。料理が楽しくて、中学生の時は和食の道に進みたいと思ったことも。
ケーキ屋さんがない町の和菓子店なので、クリスマスだけはケーキを作っていたのですが、普段は食べない生クリームやチョコレートはとても魅力的に映ったんですよね」
その後、洋菓子の道を志すようになった和泉シェフですが、学生時代のアルバイト先は、意外にもずっと建築関係だったそう。
「図面を描いたり、建物を見たりするのも好き。設計や組み立てが好きなことは、この仕事にも生きているかも」
お菓子の構成はもちろん、シェフが自らデザインを考えているというパッケージも、おしゃれでスタイリッシュ。シックなトーンで統一され、ジュエリーショップのような店構えも印象的です。
「洋裁をしていた母の影響からか、ファッションも大好き。日頃から良いデザインのものを見たり、本を読んだりと、インプットの時間も大事にしています」
新素材は「代用」ではなく、
それぞれの個性を楽しんで
この日教わったのは、「cotta tomorrow」のオープンを記念したコラボレシピ、和泉シェフの新作「クルスティアン ショコラ ソイ」。今、世界中で注目を集めているプラントベースの製菓材料を使っています。
「例えば今回使う、豆乳クリームから作られたバター『ソイレブール』は、従来のバターの代替品としてではなく、新しい素材として使って欲しいですね。乳脂肪ではない分、コクを補う必要がありますが、食べたあとの軽さは従来のバターにはない個性がありますよ。
仕上がりは一見シンプルなチョコクッキーですが、シュトロイゼルとサブレ、2種のクッキーでチョコをサンドし、異なる食感のハーモニーを目指しました」
「ソイレブールは、冷凍状態でもカットできて、すぐに柔らかなポマード状になるのも従来のバターとの大きな違い。常温に戻す手間がいらないのは魅力ですね。
今回は、ほろほろとした食感を目指し、小麦粉ではなく米粉を合わせました。米粉はよく混ぜてもグルテンができないので、初心者でも失敗しにくいですよ」
「ソイレブールには大豆特有の香りがありますが、それを隠すのではなく、ココアと合わせることで、それぞれの良さが引き立って、ナッティなコクが生まれます」
サブレ生地には、大豆でできた濃厚なクリーム「濃久里夢(コクリーム)」と刻んだチョコレートをプラス。カリカリっと焼き上がるシュトロイゼルに比べて、チョコが引き立つよう、わずかに柔らかな生地に仕立てます。
2種の生地は薄く伸ばして丸く抜き、ドッキングさせます。
間にはさむガルニチュール ショコラは、「カカオクオリー ガーナ」をチョイス。
「日本人が慣れ親しんだチョコの味わいがあり、華やかな香りが長く続くのが特徴です」
「世界のスイーツのトレンドは、少し前からその傾向にあったのですが、パンデミックを経て、よりいっそう体が欲するシンプルなものにシフトしています。
食に携わる者として、健康や地球環境に配慮する取り組みは、これからの大きな課題。海外での流れから、まだ、なじみのない方も多い日本でもプラントベースフードは広まっていくと感じています。
ソイレブールのような新しい素材には積極的にトライして、お店で出す商品にも取り入れて行こうと研究を重ねているところです。
でも、お客さまにはプラントベースフードということを全面に打ち出すのではなく、従来の素材を使ったお菓子と同じように手にとってもらいたいですね。プラントベースかどうかに関わらず、食べてもらったときに『おいしい!』と言われることが理想です」
常に新しいことにチャレンジ
「これまでパティシェの仕事は、辛く厳しい修行が長く続く世界というイメージがありましたが、僕はこの仕事に就く人たちに夢を持ってもらいたいと思っているんです。
おいしいお菓子を通じて誰かを癒し、笑顔にする仕事をしている僕たちは、常にかっこよくいようよ! という気持ち(笑)。
また、洋菓子のベースは乳製品のバターじゃなきゃという、古い概念に留まるのではなく、新しいことにもどんどんチャレンジしたいです。守りに徹するのではなく、今後も進化し続けていたいですね」
次回はコッタオフィシャルパートナーの上岡麻美さんに、絵本のようにかわいいアニマルバターケーキのお話をうかがいます。
取材・文/singt 撮影/三矢健登
和泉光一シェフ(ASTERISQUE)
1970年愛媛県出身。現在ではスイーツ激戦区で知られる東京・代々木上原に、2012年「ASTERISQUE」をオープン。2006年、日本代表キャプテンとして「ワールドペストリーチームチャンピオンシップ」で準優勝に輝き、個人ではチョコレートピエス部門で優勝するなど、数々の世界的コンクールで受賞。パリで開催される世界的なコンクール「ル・モンディアル・デ・ザール・シュクレ」では、2022年に審査員を務め、世界から集まるトップパティシエたちと名を連ねる。また、チョコレートの最高峰を決める「ワールド チョコレート マスターズ」では、日本代表チームの指導にあたるなど、常に時代の先頭を走り続ける洋菓子界に欠かせない存在。